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甲武信岳(甲武信ヶ岳、甲武信ガ岳とも書く。2,475m)に行った。甲州、武州、信州の三つの国の境界にあるのでこの字が当てられたらしいが、三つの国の境界というのがどういうことかというと、奥深くて気軽に登れないということ。早朝出て、8時前に長野県川上村梓山の毛木場(毛木平と書いてある本もある)駐車場からスタートした。
登山道入り口をしばらく行くと、広くて明るい道と、暗くて入るなといわんばかりにケルンを積んである道に分かれる。これはケルンを積んである方に行くのでした。間違ってしまい、10分ほどロスした。こっち↓を行ってください。
今回の山歩きには「千曲川源流」をたどるというサブイベントもある。この山に降った一滴は、笛吹川(富士川)、荒川、千曲川(信濃川)と、それぞれの国の川になる。千曲川の水音を遠く近くに聞きながら歩く。
薄暗い沢ではダケカンバがアーチのように沢に向かって曲がって伸びている。ところどころ日が当たる場所では、ブナや落葉松、ウルシなどがすこしずつ紅葉していた。山道には獣の糞が散見され、中には人間の靴底ではない足跡も。そういえば登山道入り口に「クマ出没注意」と書いてあったなあ。ふだんならそんなに気にならないが、先日の乗鞍スカイライン終点でのクマ襲撃と気の毒な最期の写真を思い出し、自然と緊張する。朝曇りの中は生き物の気配に満ちて、何度となく視線を感じてナナメ後ろ上を振り返った。きつい登りはないが、これがけっこう長い(ガイドブックによれば3時間)。いいかげんまだかと思ったとき、
ありましたねえ。ちょろちょろになった渓流が山に消える。というか、山肌から水が滲みだしているところ。
これがあの堂々たる大河になる千曲川水源なのかと思うと、県民でもないけどちょっとぐっとくる。ここで湧き出した一滴が万代橋をくぐって日本海に到達するまで、どのくらいの時間がかかるのか。
千曲川源流を過ぎるとあとは尾根に上がって山頂を目指すのみ。ここの分岐から金峰山や国師ヶ岳へも行ける。
やっと空が明るくなってきた。山の上の南斜面はさすがに紅葉が早い。
水源から45分くらいで山頂に到達しました。登り始めから3時間40分程度。(コースタイム4時間)
地図上では長野県みたいなんだけど、なんで埼玉県かな。山頂は12,3℃だろうか、陽射しもなくてやたらに寒かった。もう秋だもんね。三国方面、ではないが、三つの方角に下りられます。帰りは飛ぶように下りて、2時間40分くらいだった。麓に下りたら、金峰山の五丈岩や瑞蠣山(みずがきやまと読む)の岩塊がくっきり見えた。上から見えなくて残念。下界はすっかり雲も切れて青空。麓の川上村はキャベツ・レタス畑が連なり絵に描いたような田園地帯。立派な日本家屋や村役場、それに学校もモダンな木造で、豊かな里であることが偲ばれた。いやもう、何か裏があるのではないかと疑ってしまうほど素敵なところだった。
川上村には「宇宙飛行士候補の油井さん」と並んで、県の天然記念物「川上犬」という地元の誇りがある。ヤマイヌを飼いならしたといういわれがあり、甲斐犬のような存在なのだろう。登山道入り口の駐車場にある写真を見ると、いかにもヤマイヌライクな甲斐犬と比べると、むくむくしてなんともかわいらしいので、どこかにいないかなー、と思ったが、天然記念物は道端なんぞには寝そべっていないのだった。仔犬とかこのかわいらしさだ。あ、甲斐犬も大好きですけどね。天候不順だったせいか、お花畑にはまだ早かった。涸沢にはナナカマドなどがあり、秋には紅葉が見事らしい。そうだろうな。バカみたいに綺麗なんだろうな。晴れならば。
そしてまた雪渓をわたる。今回ストックの先のカバー(山歩き用伸縮ストックは、雪渓以外では、スキー専用ストックみたいに尖った部分をカバーするゴムをつけて使用する)が取れちゃうし、二本持っていったうち一本は、三分の二がどこかに落ちてしまったし(縮めると三分の一の長さになる)、歯の詰め物は取れるし、雨具は古くなって防水がてんで利かないし、帽子は忘れるし、色々大変だったなあ。いやしかし、横尾~徳沢~河童橋~バスターミナルの三時間はもうほんと暑いだけで、高原リゾート上高地にやって来られた皆さんを横目に、ゾンビのように歩くだけだった。
山登りは、行く前は憂鬱だし、登り出すとものが考えられないくらい疲れるし、登り以上に下りはキツいし、景色は絵葉書で見るほうが絶対に綺麗だし、帰ったら洗濯や片付けはあるし、もう行くかと思うが、また行きたくなっている。のだが今回の山行はずっと怖かったけど楽しかった。登ってる、下りてる、平坦な暑い道をダラダラ歩いてる最中でさえ、また次ここに来れるのはいつだろうと思っていた。こんなことなんて初めてだ。
動物が今回見た動物:キジバト、ウグイス、ホシガラス、ニホンザル、カモ(何ガモか分からなかった)、カモシカ、ライチョウ、チョウゲンボウ、ミミズ、ナメクジ、アブほか虫無数。
ばいばい。
日の入りを見ようと涸沢岳のほうに皆少し移動。東側の雲にほんの一瞬ブロッケン現象が見えた。日の入りは…あまりたいしたことなかったな。
で、すぐ寝たのだが、暑くてまるで寝つけず、頭をあっちにやったりこっちにやったり、あげくの果てに廊下に布団を出して映画「Antichrist」のことを考えながらやっと眠れるか? と思ったら、もう早発ちの人たちが起きる頃で、また寝床に戻った。直後たたき起こされて、満天の星空をしばし見た。「Antichrist」に出てきたきつね座やめじか座、からす座なんかは分からなかったが、天の川、流れ星、人工衛星が5分くらいの間にやたらに見えた。頭も体も冷やして、やっと一瞬眠ろうかなと思ったらもう日の出だったので、着替えてご飯を食べて、今度は東側、涸沢カールを臨むほうに集合。
涸沢ヒュッテに灯りがともっている。 常念岳から日が昇ってきた。どうして皆日の出を見たいんだろう。自分も。長い下りの一日が始まると思うとうんざりだ。午後になるとガスがかかり、とたんに寒くなってくる。鞍部から山頂は1時間くらいだったが、森林限界を超えると本当に有機物のない、ある意味死の世界なのだが、だからとても清潔だ。こちらは穂高岳山荘から涸沢岳を望む。
山頂付近。もう何も見えない。やっぱり早朝に来ないとダメだなあ。でも景色のためではない。自分のものじゃないけど、自分の山だから、いつか登らないといけないと思って来たのだもん。呆然として山頂の祠を見る。穂高はすごい岩山の塊で、富士山の、富士山をバカにしているのではないが、バカみたいな感じとも、北岳のどっしりした懐の深い感じとも違い、綺麗だが見るからに厳しく、近寄ればさらに実際厳しい。日本にこんな山があるとは思わなかった。
そうそう、ガスに包まれた山頂にはまだ若い雄のライチョウがいた。噂どおり、全く人を恐れずトコトコ歩いていた。この世の鳥ではない。これまた映画「Antichrist」を思い出したよ。
正午過ぎ。涸沢岳と奥穂高岳の鞍部にある穂高岳山荘に到着。これは奥穂高岳方面を望んでいる。なんとなく南米の遺跡にいるみたい、でもないか。
ここはヘリポートもある大きく立派な山小屋だ。3000メートル超と書いたが、あれれ、2996メートルらしい、訂正します。「ようこそ、信じられない世界へ」とサイトのコピーにあるが、あの、この楽しげな感じはウソですから。ほんとに信じられない世界なのだ。
一休みしてからいよいよ山頂を目指します。
さて、ここからが(しょぼい)メインイベント、ザイテングラート登り。ザイテングラートとは、自分も知らなかったが側壁、とかそういう意味のドイツ語らしい。山本体ではなく、山にくっついている山みたいなもんか。たんこぶか。
涸沢の大きなボウルみたいな氷河谷に岩がくっついている。そういう感じ。取り付き始める頃、麓から雲が上がってきた。晴れているうちに鞍部に登りたいものだ。
岩というか、巨大な生き物が山に取り付いたまま化石になってしまったような状態だ。ここから鞍部まで2時間弱かかったかな。一箇所梯子があったが、後はガリガリした石ころがあるだけのそう登り難くもない場所だ。六ツ石山の方が大変だったなあ。でもでも、ここ2000メートル超の場所であるから。当時梅雨明け前でいつ天気が変わるか分からないし、とにかく安全な山歩き、ということで、初日横尾山荘泊、二日目穂高岳小屋泊、登るのは奥穂高岳のみという日程を組んだ。本来は初日涸沢小屋くらいまでは行けるつもりだったが、横尾までの平坦な道でも濡れっぱなしなので正解。雨具が古くなっていて、全然防水しない。今回は帽子も忘れてるし、田部井淳子さんも雨具は消耗品、二年ごとに買い換えよと言ってるから、無事に帰ったら雨具を更新しよう、レインハットもほしいなあ…などと思いながら歩いていく。小止みになって、明日はいいかな? と思いながら、夜はまた雨なので、ダメだったら涸沢まで行ってあきらめよう、ということになった。
この写真だとわからないが、絵葉書などで見ると綺麗な梓川も水かさがたいそう増した単なる川みたい。
横尾大橋。何度も流されたとか。
ラーメン食べた。温かくておいしかったなあ。